『 横顔  ( プロフィール ) ― (4) ― 』

 

 

 

§ 島村さんちの お父さんとお母さん の見解

 

 

     トントントン  軽い足音が近づいてくる。

 

「 おと〜さ〜〜〜ん  お風呂の温度 どう?  」

「 ん〜〜〜  いい湯加減だよぉ〜〜  チビ向き。

 こちら 準備完了だ 

「 わお〜 じゃ おねがい〜〜  」

「 おう 了解。  さあ すぴか〜〜 すばる〜〜〜 おいで 」

 

     カタン ―  半透明のドアが開く。

 

お母さんが すぴかを半分抱っこして立っている。

「 あ  ジョー! アナタが先に全部脱いでなくちゃだめよ 」

「 お 失敗 失敗〜〜  ちょいとチビたち 止めといて  

「 それができれば・・ あ こら すぴか〜〜 」

 

   おと〜しゃ〜〜〜ん!   ぱかん。

 

お風呂場に すぴかが飛び込んできてパンイチの! ジョーにくっついた。

「 おっとぉ〜〜  すぴか ちょっと待ってて〜〜

 おと〜さん ぱんつ、脱いじゃうからさ 」

「 アタシも〜〜〜 むぎゅう〜〜〜 ぱんつ〜〜 」

すぴかは自分のぱんつを引っ張ってもごもごしている。

「 あれれ  ちょいと待ってまって 」

「 むぎゅう ?? 」

「 あは じゃ 一緒に脱ぎ脱ぎしよっか?  いいかな〜〜

 まず かたっぽのあんよをぬいて 」

「 あんよ?  ぎゅ〜〜〜う ・・・ え〜〜い!! 」

 すぽん。  ちっちゃな脚は軽々信じられない程高くあがり

 ちっちゃなパンツは ぴら〜〜〜〜 と宙に舞った。

 

     うひゃあ〜〜〜  ・・・

     ・・ うん   さすが フランの娘だなあ

 

ジョーは妙な感慨で 飛んでゆくチビぱんつを眺めていた。

 

「 ジョー! すぴかのぱんつ、拾って〜〜 

 すぴか〜〜 じっとしてるの。  ほら おと〜さんのあんよに

 つかまっていなさい 」

「 あんよ? おと〜しゃ〜〜〜ん のあんよぉ〜〜 」

  ぴと。  生温かいイキモノ?が ジョーの脚に密着する。

「 あは?  わあ〜〜 上手だねえ〜 すぴか 

 さあ お父さんもハダカになったよ〜〜 一緒におふろしよ 」

「 おふお〜〜〜 おふお〜〜♪ 」

ジョーの小さな娘は ご機嫌ちゃんで父親の脚をぺちぺち叩く。

「 あはは  くすぐったいよぅ〜〜 すぴか ・・・

 さあ おゆ ざ〜〜〜 して 石鹸 ぶくぶくしよっか 」

「 ざああ〜〜〜〜  あはは  ざああああ〜〜〜  

すぴかは お湯を浴びて大喜び、石鹸の泡でも上手に遊べる。

「 ほうら〜〜  しゃぼんだま〜〜〜 ぽわん 」

「 きゃはははあ  ぽわん 〜〜 おと〜しゃん ぽあん 」

「 ねえ〜〜  ぽわん ぽわん かわいい・すぴかは

 あわあわあわ〜〜〜 」

「 きゃははははあああ〜〜〜  おと〜しゃ〜〜〜ん 」

小さな娘と泡だらけになって くっついたり あぐらの中に彼女を抱っこしたり

もうもう ジョーの鼻の下は びろ〜〜〜ん と伸びている。

「 すぴか〜〜〜  ああ カワイイなあ〜〜〜

 ぼくのすぴか かわいい かわいい ぼくのタカラモノ ♪ 」

「 かあいい〜〜?  おと〜〜しゃん かあいい〜〜〜 」

「 そうかい? うれしいなあ  さあ じゃぶん するからね〜

 だっこしよう 」

「 ん!!  じゃぽお〜〜〜〜ん 」

娘と一緒に入った浴槽は ジョーにはちょいと生ぬるいけれど

も〜〜〜 彼は あったか〜〜〜い気持ちにどっぷり浸る。

「 じゃぼ〜ん ちゃぷちゃぷ〜〜  な すぴか? 」

「 きゃい〜〜 じゃぼ〜〜〜ん じゃぶ じゃぶ〜〜〜 」

ぱっちゃ ぱっちゃ ぱっちゃ 

小さな手が お湯を跳ね返し 飛ばし ・・・ 遊びに夢中。

「 ああ ・・・ 可愛いなあ ・・・ 

 すぴかあ〜〜〜  ああ お父さんは食べちゃいたいくらい、

 すぴかが好きだよぉ〜〜〜 」

「 むぎゅ?  あ  おと〜しゃん  すばる は? 」

「 うん?  すぴかがお風呂 おわったら すばるだよ 」

「 すばる??  すばる〜〜 すばるぅ〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 いっしょ に じゃぶじゃぶするぅ〜〜〜〜〜〜 」

「 うん うん すぴかと交代でくるからね  」

「 いっしょ いっしょ 〜〜〜  じゃぶじゃぶゥ〜〜

 す〜〜ばるぅ〜〜〜〜〜〜〜〜 」

きんきん声が バス・ルームに反響する。

「 うわ ・・・ み 耳が・・・ 」

ジョーは すぴかを抱っこして湯船から出た。

彼女はまだ < 咆え > 続けているのだ。

「 ぅぅぅ・・・  フラン〜〜〜  すぴかがさあ〜 」

   ガラリ    浴室の半透明のドア開いた。

「 はいはい すぴかの吼え声は もう外まで聞こえてるわよ ・・・

 ほら すばる、 すばるの番ですよ  おふろ! 」

ジョーの細君は 小さなムスコを夫に差し出し

その後でムスメを受け取ろうとバスタオルを手にした。

「 さあ すぴか いらっしゃ〜〜い 」

「 すば〜〜〜〜〜〜 る 〜〜〜〜〜   あ すばる! 」

「 すぴかぁ〜〜〜〜 」

生き別れの兄弟の感動の再会みたいに 二人はひし! と抱き合い

すぴかはそのまますばると一緒に 浴室に逆戻り。

「 あ  すぴか! ほら もう上がりますよ〜 

「 や!  すばると じゃぶじゃぶ〜〜〜〜  する!

 ね〜〜〜 おと〜しゃ〜〜ん 」

「 すぴか〜〜 むぎゅう〜〜 すぴか 」

「 すばる〜〜  じゃぶじゃぶ しよ! 」

ケタケタ ケタケタ 笑い合い転がりあいまで始まった。

「 こらこら ・・・ せっかく温まったのに ・・・

 じゃあ 二人でじゃぶん しようか 」

ジョーは しょうがないな・・・とチビ達を一緒に抱き上げた。

「 ジョー ・・・ 大丈夫? 」

「 ああ。 もう離れない ってさ 」

「 バスタオル 広げて待ってるから ・・・ 」

「 頼むね〜〜 さあ 二人とも? お父さんも一緒に〜

 じゃぶ〜〜ん 」

「「 じゃぶ〜〜〜〜〜ん  きゃ〜〜〜〜 」」

三人は 浴槽に沈む。。

「 いいかい? じゃあ 100まで数えるぞ〜〜〜 

 できるかな〜〜? 」

「「 できゆ !!  」」

「 お すごいな〜〜 それじゃ いっしょに数えよね 

「 うん! い〜ち に〜〜〜 」

すぴかがすぐに数え始め すばるはにこにこ・・・姉をみている。

 

      すばるは まだ覚えてないのかな?

 

ジョーは すばるの顔を見ていたが。

「 と〜〜お! 」

「 と〜お が ひとつ! 」

「 そんじゃ い〜ち  に〜〜〜 さ〜〜ん ・・・」

「 と〜お が ふた〜つ 」

姉弟の連携プレーはとてもスムーズなのだ。

 

      へえ ・・・ すげ〜な コイツら

 

      十進法の基礎? みたいなこと、やってるじゃん

      へ〜〜〜え

 

ひどく感心したけれど ジョーは何気なーく訊ねてみる。

「 すばる〜  かぞえかた だれにならった? 

 おか〜さんかい 

「 と〜お が みっつ!   はにゃ? なに おと〜しゃん 」

「 すばる、数えかた、教えてくれたのは おか〜さん? 」

「 ん〜〜んん。 ちがう  ね すぴか 」

「 ん。 おじ〜ちゃま だよぉ〜〜 

「 そっか ・・・ おじいちゃまに習ったのかあ 」

「 うん。 すぴか〜〜 と〜お がみっつ だよ 」

「 は〜い い〜ち に〜〜 さ〜〜ん 

二人は けたけた笑いながら数をかぞえている。

 

      ふうん ・・・

      あそびと同じなんだなあ〜

 

「 そうだねえ〜〜  さあ と〜お が とお まで

いったら でようねえ 」

「「 うん  」」

「 それで おかあさんのタオルにジャンプ〜〜 」

「「 きゃはは〜〜〜  」」

 

現在、チビたちのお風呂たいむ は 夫婦で協力しないと絶対に無理。

最初は親も二人ともびしょ濡れになっていたけれど

今では < 出待ち > の方は 服のままでオッケーだ。

 

「 さあ〜〜 タオルでごしごし〜〜〜 しましょ

 パジャマきて お休みなさ〜〜い よ 」

「 ごしごしごし〜〜〜〜 」

「 ふわふわふわ〜〜〜〜 」

「 ふふふ きもちいいでしょう?  

 ・・・ ジョー? あなたも上がってきたら ? 

奥さんは お風呂場のダンナさんに声をかけた。

「 ・・・? ジョー? 」

「 ・・・ あ  うん  あの ・・・ なんか のぼせた ・・・

 ふらふら する ・・・  」

「 え??? ちょっと 大丈夫〜〜 

 ねえ バス・タブから上がって!!  ・・・ 溺れても

 いま 助けてあげられないのよ〜〜 

「 ・・・ あ  うん ・・・ う〜〜ん 」

「 ちょっと!  009がバスタブで溺死 なんていやですから! 」

「 ・・・ へいへい ・・・ う〜〜〜 あ〜〜

 なんか アタマ ふらふらするよ 」

「 もう ・・・ ほらあ パンツはいて リビングで涼んでて 」

「 あ・・・ うん ( もぞもぞ ) 」

ジョーは パンイチでふらふら・・バス・ルームを出た。

「 あ おと〜〜しゃ〜〜〜〜ん !!!   

「 ! すぴか !!!  

すぴかは するり、と母の腕をすりぬけ たたたた ・・・・っと

父の後を追っていった ―  まっぱちゃんで☆

「 すぴ〜か〜〜 僕もぉ〜〜〜 」

「 だめよ すばる。 ちゃんとタオルでもこもこしてから。

 まだカンカン 濡れてるでしょう? 」 

「 かんかん?  えへへ〜〜 くるん〜〜 くるんくるん 」

すばるはくるくるくせっ毛の茶色の髪を振り回す。

「 あ〜〜〜  すばる〜〜 だめよぉぉ〜〜

 ほらほらお水が飛ぶでしょう〜〜  きゃ ・・・」

「 くるん くるん〜〜(^^♪ えへへへ  」

「 こぉらぁ〜〜  捕まえたっ 」

 ぼす。 フランソワーズはバスタオルで息子を捕獲した。

「 きゃ〜〜 もごもごもご〜〜  きゃ〜〜 」

「 さあ このままリビングに行きましょ。

 そろそろお父さんが復活してるころだから・・・ 

「 おと〜しゃ〜〜〜ん 」

「 はいはい ・・・ すぴかもいるからね 」

「 すぴか? すぴ〜〜か〜〜〜〜〜ぁ〜〜〜〜〜〜   

バスタオルの中から 正真正銘のボーイソプラノが響きわたる。

「 うわ ・・・ すばるクン、 歌わなくていいから・・

 おと〜さ〜〜んって。 ほらほら パジャマ、着せてもらって  

 

  ガチャ ・・・ 母は息子をバスタオルごとリビングに押し込んだ。

 

「 ジョーぉ?  すばる お願い。  まだ裸んぼ 

「 お〜〜  すばる きたか〜〜〜 」

ソファの向うから声が聞こえた。

「 ?? ジョー? どうしたの? 」

「 あは ・・・ 湯あたりしたかなあ ・・・

 窓の側って涼しいから ・・・ 身体 冷やしてるんだ 

「 え・・・ ちょっと大丈夫??

 ( 009って 暑さに弱いの?? ) 」

「 ふう〜〜  うん なんとか ・・・ 」

「 ! すぴかは ? 

「 あ〜  ここでもう沈没してる  ぐっすりさ 」

「 まあ ・・・ 」

「 ネンネしてから パジャマ、着せたさ 」

「 ありがとう。 じゃ すばる お願い。

 すぴかは子供部屋に運ぶわ 

「 お〜〜  すばる〜〜 おいで〜〜 」

「 はい。 どうぞ 」

母はバスタオルにくるまれた息子をわたした。

「 きゃ〜〜〜 おと〜しゃんだあ〜〜  

「 すばる〜〜  し〜〜 ・・・・  ね?  すぴかはもうねんねしてるんだ 」

「 すぴか? ねんね〜〜 

「 うん。 さ すばるもパジャマ 着ようねえ 」

「 ん〜〜 おと〜しゃん も〜〜 」

「 え?  あ そうだねえ お父さんも ぱんつ だけだねえ 

 じゃ すばる 一緒に着替えようね 」

「 うん あ〜 こうやってぇ〜〜〜  」

すばるは ゆっくりぱじゃまの上着をアタマから被った。

「 むぅ〜〜〜〜 ? 」

「 ほら 出口はここだよ〜〜  

「 もごもご ・・・ ぽわ ! あ おと〜しゃ〜ん 」

「 はぃ  すばる。 さあ 次はズボンだよ 」

「 むう〜〜〜〜 むうん〜〜 

すばるはのんびり屋さんなので 急ぐことはしない。

そして ひとつ ひとつを丁寧にやるので < 完成度 > は高い。

「 ・・・ で〜きた〜〜〜 」

「 うん 上手に着られたねえ  くまちゃんのパジャマ、

 とってもかわいいよぉ  」

「 くまちゃん・・・  ふぁ〜〜〜〜〜 

大きなアクビをし すばるもとろ〜〜んとして目つきになってきた。

「 おやおや オネムかなあ  すばる 」

「 ・・・ おねむ〜〜  じゃ ないも〜〜ん ・・・

 おと〜しゃん と  あそぶ ぅ  」

「 はいはい  じゃあ 一緒にお部屋に行こうね 

 フラン〜〜 ちょっとチビ達 ベッドに入れてくる 」

「 あら 二人、抱っこできる? 

「 カルイ カルイ〜〜 ぼくを誰だと 」

「 はいはい では宜しくお願いします、 009さん 

「  了解〜  よ・・・っと 」

ジョーは熟睡の娘とうとうとし始めた息子を抱いて子供部屋へ

階段を上り始めた。

 

       うん ・・・?

       二人とも こんなに重たかった??

 

       うわ〜〜〜 なんだ これ。

       ぐだぐだ の でろでろ で・・・

 

       なんか 米袋でも担いでるみたいだ〜〜〜

 

眠ったチビ達 という大荷物を両手に抱え 009は大汗かいて

コドモ部屋までなんとか辿りついた。

 

「 ・・・ ふ〜〜〜  えっと・・・ まず すぴかを

  ベッドに入れて と 

もぞもぞ〜〜〜 片手で抱いているすばるが むにむに動く。

「 ? すばる?  ほら ねんね ねんね だよ〜〜 」

「 ・・・ おと〜しゃ ・・・ 僕のくまちゃん  どこ 」

「 くまちゃん? ちょっと待ってて・・・ 

 いま すぴかを 降ろすから ・・・ 」

「 くまちゃあ〜〜〜ん  くまちゃん  どこ どこぉ 〜 」

「 あ 動くなよ〜〜  ちょっとだけ じっとしてて・・・ 」

「 ・・・う〜〜 僕のくまちゃあ〜〜〜ん  」

「 う〜〜〜 」

ジョーは 腕力にモノを言わせ すぴかをそう・・・っとベッドに降ろし

その間、 反対の腕でもちゃもちゃしてるすばるをしっかり抱き。

「 ほらほら  すばる・・・ ほら くまちゃん、ベッドにいるよ 」

「 あ  くまちゃあん〜〜  ・・・ ネンネ しよ ・・・

 ふぁ〜〜〜〜〜〜  ・・・・ 」

「 すばるく〜〜ん ・・・って  ほら 毛布かけて 」

「 ん 〜〜  ・・・ おと〜しゃ〜ん 

「 なんだい 」

「 ・・・ ん 〜〜  おと〜  しゃ  ・・・ 」

すばるは瞬眠できないタイプなのだが 今晩はお風呂で騒いだからか

ベッドに入る時にはもう 半分お目目が閉じていた。

「 ・・・ おやすみ すばる。  

 すぴか?  ああ よくねんねしてるねえ 」

息子にふわり、と毛布をかけ 娘のはみ出していたあんよを戻し。

小さな常夜灯を点すと ジョーはそう・・・っと子供部屋を出た。

 

   とん とん  とん ・・・ ゆっくりと足音が降りてくる。

 

「 ・・・ふう 」

「 寝た? 二人とも 」

「 ああ すぴかはあのまま とっくに夢の国〜〜 だし

 すばるも ベッドに入った時は目がくっついてた。 

「 まあ よかったわ〜〜〜  ・・・ まあ あれだけお風呂で

 騒げば 眠くもなるでしょ 」

「 ふふふ ・・・ しっかし アイツ、すげ〜 ボーイ・ソプラノ

 だねえ  」

「 すばるってね 耳、いいのよ。 多分 絶対音感、あるかも 」

「 お すげ〜な〜〜 さすが 003の息子だねえ

 合唱団にでもいれるか? 」

「 ジョー、 やってたんでしょ? 」

「 ぼくのは半ば強制。  教会の クワイヤ だからね・・・・

 聖歌ばっかだった  アニソンとかとてもじゃないけど 

「 へ〜え ・・・ あ そうそう ウチの兄もねえ

 声変わりするまで教会の聖歌隊にいたわよ 」

「 そうなんだ? じゃあ アイツの音感はお義兄さん似 か? 」

「 さあ ねえ ・・・ 兄はあ〜んなにのんびり屋さんじゃなかったわ 」

「 あはは ・・・ ま いいさ いいさ それぞれで。 」

「 そうね。 元気で笑顔、それが一番(^^♪ 」

「 です ね   奥さん 」

ジョーは う〜〜〜ん・・・と伸びをした。

大荷物 を運んだ後 さすがの009でも肩が凝った ― かもしれない。

「 しっかしなあ  チビ達 重たくなったよねえ 」

「 え そう?  ああ 寝てるとね 特に重く感じるわよね 」

「 いやあ ・・・ フラン きみ、毎日ありがとう!!

 あんな 重たいの、二つも抱っこしたり ・・・ 」

「 ふふふ あんまり抱っこしないの。

 すぴかはね 放っておいても一人でたかたか走って行っちゃうし

 甘えん坊のすばるは なるべく一人で歩かせてるの 

「 お〜〜 さすが〜〜〜 」

「 すばるってばねえ ゴネてるときでも 出発進行〜〜 ! って

 声かけるち さっさか歩きだすの。 

「 あ アイツ 電車好きだもんなあ 

 将来 鉄っちゃん だな。 いや もう立派なコテツかも 」

「 電車の動画とか 大好きだしね 」

「 ふうん ・・・ よし 今度の週末、駅まで連れて行くよ。

 一緒に心ゆくまで でんしゃ を見学だ 

「 あら〜〜〜 いいわねえ 〜〜〜 」

「 好きなコトがあるって いいことさ。 」

「 ホントよねえ  それでいっぱい遊んでゴハン食べて・・・

 コテン、と寝てくれれば  最高よ 」

「  ・・・ だね。  へ〜〜くしょいっ 」

ジョーは 盛大なくしゃみをした。

「 あらら ちょっとぉ ちゃんと着てね? 

 風邪っぴきなんてイヤよ? 」

「 ・・・ スイマセン ・・・ セーター 着るよ 」

「 ― そうしてください。 すぐに ね!

 さ 晩ご飯にしましょ 」

「 うん♪  今晩は なに? 」

「 商店街の魚屋さんにね、いい鰈 ( かれい ) があったの。

 煮付けにしてみたわ 」

「 お♪ いいねえ〜〜  あ きみはムニエルとかの方が 」

「 あら 煮付けって美味しいわ。

 それにね〜〜 これならチビ達も食べられるもの 」

「 アイツらも 食べたのかい 

「 ええ。  すぴか、気に入ったみたいでばくばく食べたわ。

 すばるは味付けが好きみたいね〜〜 和風の味が。 

 煮汁とカレイをごはんにのっけたら ご機嫌で食べてたわ 」

 

     ほわ〜〜ん ・・・ 出汁と醤油のいい香が広がってきた。

 

「 はい 温まりました。  ね いい色と香りでしょう?  」

「 ぼくも ばくばく食べるぞ〜〜〜 うわ 美味そう〜〜 」

「 ふふふ  お味噌汁も、じきに温まるわ。 

 今日はねえ ジャガイモと玉ねぎよ 」

「 やた〜〜〜♪ アレ、好きなんだよね〜〜

 あ〜〜 ウチの味噌汁って もう最高だよ〜〜 」

「 あら よかったわぁ あのね このカレイは本当に美味しいの。

 ムニエルより煮付けの方が いい味がでるわ 

「 ふうん・・・ ああ いいにおいだあ 」

ジョーが クンクン鼻を鳴らす前で フランソワーズは長い菜箸で

お皿に鰈の煮付けと 付け合わせのほうれん草のお浸しを盛り付ける。

小鉢には  ジョーが好む野菜の白和えが色取りよく盛られている。

 

        へえ ・・・ スゴイなあ 

        ぼくよか 全然上手じゃん 箸捌き ・・・

 

        ・・・ いや 完全に負け だ・・・

 

ジョーは いい香につられつつも細君の箸使いから目が離せない。

 

「 はい どうぞ。 」

ことん ことん。   御飯と味噌汁が並ぶ。

「 ふうん ・・・ 」

「 ?  なあに 」

「 いや ・・・ フラン、きみって箸の使い方、上手だねえ 」

「 え?  そう?  お箸って慣れると便利だわ。

 これひとつでどんな食材にも使えるんですもの。 ヌ―ドルだって

 お豆腐だって。 フォークじゃお豆は摘まめないでしょ。 」

「 まあ そうだけど さ 」

「 さ どうぞ 熱いうちに ・・・ 」

「 はい。  いただきます 」

ジョーは 目をつぶりきっちり両手を合わせてから

 ― 静かに箸を取り上げた。

 

        ここは。 日本人として。

        でっきるだけ 優雅に箸を使わんと!

 

島村氏は 妙〜〜に緊張しつつ 晩ご飯を食べ始めた。

氏の奥方は そんな氏の横顔をじ〜〜〜〜〜〜っと見つめていた。

いかに食べることに没頭していても かなりイタい視線だ。

 

      ?  な なんだ???

      ぼく 箸の持ち方 ・・・ ちがってるか?

 

      味噌汁、 音を立てて啜った ??

 

氏の動きは ますますぎくしゃくしてきた・・・

 

「 お味 いかが? 」

「 ・・んぐ んぐ んぐ ・・・ はい 大変結構です 」

「 そう  よかったわ 」

「 ・・・ きみは ? 完全な和食だけど ・・・

 フランが好きな料理とは違うんじゃないのかい 」

「 あら とっても美味しかったわぁ〜〜 わたし カレイの煮付けも

 お味噌汁も ほうれん草のお浸しも 大好き♪

 特ねえ お豆腐 と こんにゃく って 最高だわ 」

「 へ??  とうふ と こんにゃく ?   こんにゃく??

 きみ そんなに好きだった? 」

「 そ。 スーパー ダイエット・フーズよぉ〜〜

 苦労している海外のコ達に 進めてあげたいわあ 」

「 ・・・ あ そっちか  そっかあ こんにゃく とか

 海外にはないかあ 」

「 そうよ。  こんにゃく・ぜり〜 とか チップとか・・・

 もう最高〜〜  和食って最高だわあ 」

「 なあるほどねえ ・・・ ふうん ・・・ 」

ジョーは お茶碗の中でご飯を集めつつ 妙な感慨にふけっていた。

 

      ・・・ 変われば 変わるモンだなあ 

 

 

この国で暮らし始めた頃 ―

フランソワーズ・アルヌール嬢は 和食は苦手 と言っていた。

「 食べられるものも あるけど ・・・

 作るのは ちょっと無理かも。  ジョー、やってくれる? 」

「 そうねえ  クロケット ( コロッケ ) とか 

 コートレット ( カツレツ ) は 美味しいと思うわ。 

 でも作れないし ・・・ 冷凍食品でいい? 」

「 セロリやパセリ ハーブやズッキーニ、コルニッション とか

 普通にスーパーで買えるのね〜 すてき! 

 美味しいパン屋さんも増えたし ― 巴里にいたころとあまり変わらないわ

 ただ ・・・ ラパン ( うさぎ ) ってどこで売ってるのかしら。

 え? ペット・ショップ?  いえいえ 食べるのよ。

 ああ チキンのね ひよこも美味しいのよ 」

 

    ― などなど 発言し。

島村氏は 気たるべき新生活では食生活の改変に覚悟を決めていたのだ  が。

 

 

二つの新顔が離乳食の時期になってから ―

島村さんちの食卓は ほぼ和食になった。

 

「 え?  そうね〜〜 お味噌汁の上澄みをすくって

 実のジャガイモをちょいとつぶせば すぐに一品できるし?

 ごはん も ふつうに炊いたのをちょっと潰してお湯を足せば

 お粥さんになるわ。 別に作らないで済むから も〜〜 最高に便利(^^♪ 」

新婚の頃、和食作りは不得意 とか言っていたけれど ・・・

今では 島村さんちのお母さんは 朝から熱々のお味噌汁に炊きたてのごはん、

そして これは生涯不変?の たまごやき という名のオムレツをつくる。

糠漬けだって 食卓には欠かせないサラダの構成要員なのだ。

最近、 島村夫人は糠床にも挑戦し着々と成果をあげている。

島村氏も ウチの糠漬けは逸品だ、と公言し憚らない。

夫人のお好みの変化とともに食生活は しっかりと変化していった。

・・・ 氏は もちろん大歓迎だったけど。

 

       つまり。 いつの間にか ごく自然に。

 

    ジョーのウチは 奥さんがしっかり舵取りをし運営されている。

 

そして その重大事実に島村氏は全く気づいていない。

彼は だんだんと < 彼好み > になってきた家庭生活に

しっかり満足し よき父 よき夫 になるべく日々努力している。

 

   つまり 009は ごくふつ〜の市生のヒト となったのだ。

 

 

「 え〜と  あ ジョー 納豆、忘れてるわよ 」

「 あ いけね〜〜 」

「 わたしの分も出して。 」

「 え きみ 食べるの? 」

「 もうず〜〜〜っと食べるわよ? オイシイと思うわ。

 ねばねば食は身体にいいの。 お肌もぴかぴかよ 」

「 な〜るほど ねえ・・・ 」

「 ジョーもね、毎日食べるといいわ。

 チビ達も好きよ〜〜〜  ・・・ すばるはお砂糖かけるけど 」

「 げ★ 」

「 さあさ 美味しいご飯を頂きましょう 

「 あ うん そうだね〜〜〜 」

 

島村さんちの お父さん と お母さんは に〜〜んまり ・・・

笑顔を交わす。

そして ― お互いの横顔を 何気な〜〜いフリしつつ  

しげしげと眺めるのでした。

 

 

     ・・・ まあ  こんなモンなんじゃない?

    わたしの選択は ―  間違ってなかった ってことよ

 

 

    ぼくさあ  シアワセだなあ〜〜〜

    一目ぼれって マジ正しいぜ?  ぼくんちを見てよ!

 

*************************       Fin.    ***********************

Last updated : 11.29.2022.             back        /      index

 

***********   ひと言   *********

ま〜〜  ゴチソウサマ というところでしょうかね ・・・

コドモ達が大きくなると また変わるかな☆